
我が国は現在、年間で12億トンを超える温室効果ガスを排出しており、2050年までに、これを実質ゼロにするカーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを2020年10月に宣言しました。農林水産省では、具体的な戦略として、2050年までに農林水産業のCO₂ゼロエミッション化の実現等が挙げられており、その取組の一つとして海藻類によるCO₂固定化(ブルーカーボン)の推進を挙げております。弊社においても、藻場造成の副産物として得られるブルーカーボンに着目し、それらを推進する自治体、団体に参加することで知見を高め、脱炭素社会に貢献したいと考えております 。
ブルーカーボンとは
ブルーカーボンとは、海洋生物によって隔離・貯留される炭素のことです。
二酸化炭素(CO₂)が大気から海洋へ吸収された際、海中に溶け込んだ炭素は、海藻や海草の光合成により、有機炭素として藻体に取り込まれます。この過程を「隔離」と呼びます。隔離された有機炭素が、生態系の物質循環から外れて、長期間保存されるまでの過程を「貯留」と呼びます。有機炭素の隔離・貯留には次のようなケースが考えられます。
① 堆積・埋没
藻場では脱落した藻体が、寄り藻や流れ藻として、海面を漂って沈降した後、分解や無機化が起こりにくい海底の土壌中などの環境下に堆積、埋没した場合。
② 深海輸送
堆積・埋没しなかった一部の藻体が、大気と海洋とのCO₂交換過程から外れ、沖合深所へ移送された場合。
③ 難分解性有機炭素
枯死や脱落した藻体の一部が分解されたり、藻体の生長に伴い放出された有機炭素の内、海中で溶けない、もしくは、海中で長期間かかる難分解性の有機物の場合。

関連団体及び事業への参加
2.「豊かな大阪湾」環境改善モデル事業
基質による藻場創出の取組(効果事例)
①北海道 アルガーリーフによる藻類着生効果(マコンブ)北海道函館市で、未利用の砂質域にコンブ漁場を拡大したいと要望が挙がったため、アルガーリーフにおけるマコンブの着生量を把握し、安定的な漁獲が可能か検討した。アルガーリーフの設置後2年目に、爆弾低気圧の影響で、天然礁のマコンブが流出する問題が発生したが、アルガーリーフに着生する1,2年目藻体は着生量が増加傾向であり、外的な影響(波力、漂砂など)への耐性が見られた。また、アルガーリーフのエッジ(溝)と消波ブロックの平坦部の比較により、エッジ(溝)の有効性を確認した。アルガーリーフの環境負荷への適応力や、藻類着生機能の有効性が確認され、天然礁や平坦な基質との優位性が確認された。
第1回調査 (7ヶ月)
第2回調査 (14ヶ月)
第3回調査 (18ヶ月)







マコンブの着生量の推移(30㎝角)

アルガーリーフと消波ブロック(平坦部)の比較(30㎝角)
北海道の事業において、函館市、八雲町沿岸にアルガーリーフを設置した。本調査は各年度に1回、広範囲に分布するアルガーリーフのコンブ類の着生状況(各調査290~570基程度)を観察し、経年的な推移を評価している。アルガーリーフ設置基数当たりのマコンブの着生率は食害などの影響を含め、概ね70%前後で推移し、着生密度は1年目藻体が多かった第2回調査の結果を除くと、概ね50本/㎡前後で推移している。アルガーリーフによるマコンブの着生効果は、各年度の増減が少なく安定的に発揮されている。また、周辺海底へのマコンブの波及効果が見られ、核藻場として機能していると推察される。
第1回調査
第2回調査
第3回調査
第4回調査













北海道小樽市地先において、アルガーリーフを用いてフシスジモクの着生・生育の確認と藻場形成の可能性、ならびに魚類の産卵基質としての可否などを目的に調査を実施した。アルガーリーフの基盤上には、3ヶ月目でホンダワラ類の幼胚の大量着生が確認され、9ヶ月目には生長した幼胚がフシスジモクと同定された。その後、13ヶ月目には、フシスジモクの単一群落が形成されており、その着生被度は95%、着生密度は平均480本/㎡と測定された。17ヶ月目にはフシスジモクの末枯れにより、1齢の着生量は減少したが、0齢の新たな幼体が着生しており、21ヶ月目には0,1齢個体の混生藻場が形成されたことで、フシスジモクの次世代となる卵などの生殖細胞を効率的に拡散できることが立証された。さらに、藻体に付着するアイナメの卵塊が確認され、魚類の産卵基質としての効果も確認された。
第1回調査 (3ヶ月経過)
第2回調査 (7ヶ月経過)
第3回調査 (9ヶ月経過)



第4回調査 (13ヶ月経過)
第5回調査 (17ヶ月経過)
第6回調査 (19ヶ月経過)



香川県女木島地先において、アルガーリーフの経年的な藻類着生効果を確認することを目的に調査を実施した。各調査において、基盤上にシダモクが優占していた。シダモクは春季から夏季にかけて成熟し、その後、基部から脱落、流出する一年生の藻類であるが、調査ではシダモクが成熟した際の着生量を把握することができた。アルガーリーフに着生したシダモクにおける第1回、第3回調査の着生量を比較すると、着生密度が3.8倍、現存量が32.3倍に増加しており、良好な生長が確認された。さらに、翌年の設置後19ヶ月には葉長5㎝程度のシダモク幼体が着生しており、次世代のシダモクの群生が期待される結果であった。
第1回調査 (8ヶ月経過)
第2回調査 (11ヶ月経過)
第3回調査 (13ヶ月経過)







静岡県下田市地先において、藻類および磯根資源の増殖効果を検証することを目的に試験を実施した。アラメの着生被度は第3回調査時に最大となり、第1回調査から第3回調査を比較すると、アラメの着生数が2.2倍に増加しており、かつ単葉から側葉への生長が見られた。
第1回調査 (7ヶ月経過)
第2回調査 (12ヶ月経過)
第3回調査 (19ヶ月経過)







令和元年度『豊かな大阪湾』環境改善モデル事業の一環として、浜寺水路の傾斜護岸上にアルガーベイARW-C(reef)型を設置した。なお、アルガーベイは、様々な港湾構造物上に設置することを主体に設計した構造物であり、大阪湾などの湾奥部における環境改善を目的とした藻類着生基質である。本モデル事業では、大阪湾の最奥部に位置する浜寺水路において、以下の2点に取り組んだ。本資料においては人工藻場の効果を抜粋している。
b. 褐藻類の着生・生長による水質環境改善
b. 付着生物による魚類への餌料供給効果
c. 水産生物の蝟集による親水空間の創出



調査時期 | 第1回 | 第2回 | 第3回 | 第4回 | 第5回 | 撤去時 | |
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経 過 | 2020年4月(5ヶ月) | 2020年9月(10ヶ月) | 2021年8月(21ヶ月) | 2022年1月(26ヶ月) | 2022年4月(29ヶ月) | 2023年1月(38ヶ月) | 2023年3月(40ヶ月) |
褐藻類着生 |
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藻類 (優占種) 着生状況 |
・基質①アオサ属
(被度80%) ![]()
・基質②アオノリ属
(被度20%) ![]()
・基質③アオノリ属
(被度20%) ![]() |
・基質①アオサ属
(被度5%未満) ![]()
・基質②アオサ属
(被度10%) ![]()
・基質③藻類なし
![]() |
・基質①緑藻類
(被度5%未満) ![]()
・基質②藻類なし
![]()
・基質③藻類なし
![]() |
・基質①アオノリ属
(被度10%) ![]()
・基質②イギス目
(被度20%) ![]()
・基質③イギス目
(被度5%未満) ![]() |
・基質①アオノリ属
(被度70%) ![]()
・基質②マコンブ
(227株/天端) ![]()
・基質③マコンブ
(167株/天端) ![]() |
・基質①アオノリ属
(被度20%) ![]()
・基質②イギス目
(被度30%) ![]()
・基質③イギス目
(被度5%未満) ![]() |
・基質①アオノリ属
(被度20%) ![]()
・基質②マコンブ
(954株/天端) ![]()
・基質③マコンブ
(351株/天端) ![]() |
褐藻類 着生対策 |
アカモク母藻 (大分県津久見産) |
アカモク種糸 (大分県津久見産) |
対象種変更のため 対策なし |
ワカメ・マコンブの 種糸 |
継 続 | マコンブの種糸 |
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・アカモク母藻
(スポアバッグ) ![]()
・アカモク母藻
(雄株) ![]()
・アカモク母藻
(雌株) ![]() |
・アカモク種糸設置
![]()
・アカモク
種糸の管状況 ![]()
・アカモク
種糸の幼芽 ![]() |
<対象種の変更>
アカモク (春から冬場に生長) (冬から春先に生長) |
・ワカメ・マコンブ
種糸設置 ![]()
・ワカメ種糸
(谷川+鳴門産) ![]()
・マコンブ種糸
(青森県産) ![]() |
<マコンブの生育確認>
マコンブの着生が 確認されたため、 2年目藻体への 生長を確認する。 |
・マコンブ
種糸設置① ![]()
・マコンブ
種糸設置② ![]()
・マコンブ種糸
(青森県産) ![]() |
マコンブの調査を
最後に実験基質を 撤去 |